イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (6)

バリューネットワークとは、上流のサプライヤーや下流の顧客、小売業者、流通業者、その他の提携企業や業界内の補助的な企業がつくる集まりをいう。企業が非対称性を生み出すためには、競合企業から完全に独立した自立的なバリューネットワークの中に身を置くか、そうしたバリューネットワークを新しく構築する必要がある。

サプライヤーや流通網、販売チャネル、サポート企業が、既存の競合企業のそれと重複していると、「既存企業にとって理に適った製品・サービスを生み出せ」という厳しい圧力にさらされることがある。同調圧力をかけられやすい、重複したバリューネットワークの中で活動する企業は、十分な非対称性を持ちづらい。

非対称性がなければ、破壊的企業に対抗する既存企業の戦略は「撤退」から「取り込み」に変わる。新規参入企業が既存のバリューネットを補完するようなネットワークを持てば、既存企業は新規参入企業に対抗しやすくなる。重複するバリューネットワークは、既存企業による「取り込み」を助長する。

企業のバリューネットワークが業界の「破壊」をもたらすのか、それとも既存企業による「取り込み」を促すのかを判別する方法は、次の通りである。

  1. 企業のバリューネットワーク内で活動する全プレーヤーをリストアップする。
  2. 競合企業のバリューネットワーク内で活動する全プレーヤーをリストアップする。
  3. リストアップしたプレーヤーのどの部分が重複しているのかを調べ、重複の度合いを評価する。
  4. 新規参入企業のコスト構造とビジネスモデルが、重複によってどのような影響を受けるかを考える。

 
重複度がゼロか低い場合は、企業は非対称な動機づけを活用して非対称なスキルを生み出す可能性が非常に高い。バリューネットワークが補完的で重複度が高い場合は、既存企業にとって自然な選択は「上位市場への撤退」ではなく「取り込み」になる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2005)『明日は誰のものか イノベーションの最終解』ランダムハウス講談社
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社