イノベーションの理論を用いて業界の変化を分析する方法の第一段階は、何者かが変化の機会を有利に利用しようとしている兆候(変化のシグナル)を探すことである。変化のシグナルとして把握すべきことをまとめると図1-1となる。
図1-1. 変化のシグナル
変化のシグナルを見つけるためには、次の3種類の顧客を評価する必要がある。
- 製品を消費していない顧客や、製品を不便な環境で消費している顧客(無消費者)
- 製品を消費しているが、ニーズが満たされていない顧客(満たされない顧客)
- 製品を消費しているが、ニーズが必要以上に満たされている顧客(過剰満足の顧客)
これらの顧客は、それぞれ独自の事業機会を生み出す。そして企業は、次のいずれかの道を選ぶことができる。
- 無消費者の獲得を狙った新市場型破壊的イノベーション
- 満たされない顧客を狙った上位市場に向かう持続的イノベーション
- 過剰満足の顧客を狙ったローエンド型破壊的イノベーションか、モジュールへの置き換え
業界の状況を正しく見極めれば「その状況ではどの種類のイノベーションが成功しないのか」が明らかになる。持続的イノベーションは大抵、満たされない顧客の中でも「先進顧客」に導入され、その後、より厚みのある顧客層へと徐々に導入される。先進顧客は市場のハイエンドにいる、最も要求の厳しい顧客である。
他方、破壊的イノベーションでは、先進顧客は新しい市場か、既存市場のローエンドに存在する。したがって、破壊的イノベーションが将来市場の主流顧客にどのような影響を与えるかを予測するには、ローエンドと新しい市場、そして新しい状況に目を向けなければならない。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社