イノベーターは、成長過程の節目ふしめでイノベーションに必要なものを与えるような価値基準を持っていなければならない。破壊的イノベーションを推進する企業は「成長は気長に、利益は性急に」求めるべきである。
綿密な定量分析や市場予測を要求する投資家は「一見すると性能の限られた製品を測定できない市場に投入している企業」を退けてしまうかもしれない。そのような投資家は、意図的戦略を実行することを企業に強要し、創発的要因を認めようとしない。さらにファンドが成長して規模が拡大すれば、企業に対して一気に成長せよという圧力をますますかけるようになる。
破壊的イノベーションは、時間をかけてじっくり成長、熟成させるものである。破壊的イノベーションを推進する企業は、投資家がどのような価値基準を持っているかを見極める必要がある。
投資家の価値基準を見極めるには、企業に資金を提供している事業体のニーズを分析するとよい。例えば次のような点である。
- その事業体は、利益を性急に、成長を気長に求めるような状況にあるのか
- その事業体は、破壊的なベンチャー企業に一気に成長するよう圧力をかけなければならない状況にあるのか?
- 投資家の価値基準と、資金を求める企業のニーズはマッチしているだろうか?
資金調達では、次のような要因が重要となる。
- 投資家と企業の関係
- 投資対象企業と距離を置いた関係にある投資家は、企業がなんらかの波乱に見舞われると、出資をやめることが多い。
- あらかじめ企業の方向性が変化することがわかっている場合は、そうした変化を許容できる投資家であるかどうかを確かめておくべきである。
- 調達する資金の額
- 巨額資金の提供者すべてに見返りを与えるために、急速に成長しなければならなくなり、結果として企業を破壊の軌道に乗せてくれる、小規模で収益性の高い事業機会を退けてしまう可能性がある。
- また、あまりにも潤沢な資金があると、成功の見込みのない戦略にいつまでもこだわることになりかねない。
破壊的イノベーションのための資金調達では、次の点を注意しよう。
- 企業は、製品を開発して初期市場に投入するための資本を、大きく超える額まで調達すべきでない。
- 「速く大きく成長する」ことを求める資金が望ましいのは、企業が適切な顧客を見つけ、収益性の高いビジネスモデルを開発した後である。
- (節度のある範囲内で)ビジネスの実験を奨励し、大規模な市場への進出を無理強いしない投資家を見つけるとよい。
- 企業が少額投資と学習をくり返すことを通じて、有効な戦略とビジネスモデルを開発するように仕向ける投資家を探すとよい。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社