企業は上位市場に向かう持続的イノベーションを推進し、製品・サービスの性能向上に取り組むうちに、やがて一部の顧客が使いこなせる以上の「過剰な性能」を提供するようになる。人々が片づけようとする用事は、時間が経っても驚くほど変わらないのに、製品はどんどん良くなっていき、いつか必ず性能過剰になってコモディティ化を促す。
コモディティ化が進むと、企業はやがて自社の製品・サービスを差別化して利益を生み出すことができなくなる。過剰満足が生じると業界の競争基盤が変化するため、成長機会を生み出すことのできるイノベーションの種類が変化する。
過剰満足の顧客は、かつて重視していた性能向上に対して、割増金額の支払いを次第に減らしていく。企業がプラスアルファの機能を追加しても、それは使われずに終わる。顧客は、それまで気にも留めなかった点に不満を持つようになる。
機能性と信頼性が必要以上に高くなれば、企業が競争する「性能」の側面は「使いやすさ」へ移行する。それは、自在に簡単に使えるか(利便性)、一人ひとりの顧客の独自の用事を片づけるのに適しているか(カスタマイズ性)、安く利用できるか(価格)といった側面である。顧客が価格だけを重視するようになるのは、他のすべてのニーズが満たされた後となる。そこに至るまでは「機能性」「信頼性」「利便性」「カスタマイズ性」の優れた製品を提供する企業に、顧客は割高な価格を支払う。
市場のすべての顧客が同時に過剰満足の状態に陥るわけではない。「使いやすさ」を重視する状態は市場の底辺から始まり、徐々に上の階層にへ波及していく。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社