イノベーションへの解:第7章 破壊的成長能力を持つ組織とは (3)

実績を持つマネージャーが、なぜ新事業を誤った方向へ導くのか。この疑問に答えるために、次の3つのステップを通して「経験の学校」について考えてみよう。
 
仮にあなたが、破壊的新事業の立ち上げを決定している場に居合わせたとしよう。あなたは「経験の学校」に基づいて、3つのステップを実行するだろう。
 
STEP1 何を対処することになりそうかを明らかにする
新事業を担当するチームが取り組まなければならない問題を、以下のように列挙する。

  • 戦略を探り出し、関係者の総意を得て、それを基に事業を構築しなければならない。
  • どのような方法で市場を細分化すればよいか検討しなければならない。
  • 顧客がどのような仕事を片づけようとしているのかを見抜き、その仕事をこなすような製品やサービスを設計しなければならない。
  • 製品を積極的に販売できるような流通チャネルを見つけるか、創る必要がある。
  • 親会社が押しつけてくる間接費やプロセス、計画要件や予算編成サイクルなどを、ある程度受け流す必要がある。
  • 成長を生み出すための投資を親会社から得られるよう、利益を獲得するとともに、親会社の認識や期待を適切にマネジメントしなければならない。

STEP2 経験の学校を通じて履修して欲しい科目を列挙する
STEP1で挙げた問題に対処する過程で養われた経験を、新事業を担当するマネージャーの「雇用条件」とする。

  • 例)CEO:過去に戦略が正しいことを確信して新事業を立ち上げたものの、うまく行かないことに気付き、試行錯誤を繰り返して到達した戦略によって成功させた経験
  • 例)マーケティング担当役員:萌芽期にあった市場の構造を直観的に見抜き、従来無消費者だった顧客にとって重要な「用事」をうまくこなす、新しい製品やサービス・パッケージをまとめた経験

STEP3 マネージャーが履修した科目と見比べる
最後に、新事業に求められる経験と、これまで事業を率いたマネージャーたちの履歴書に記されていた経験とを比較する。

  • 新事業では、確立した市場を明確な製品ラインで狙う、巨大で複雑なグローバル組織を運営する方法を学んだ経験は役に立たない。
  • 新事業では、破壊的製品によって市場での最初の足がかりをつかむという挑戦に取り組んだ経験が求められる。

このように、新事業において求められる「経験の学校」は、実績あるマネージャーが通った「経験の学校」とは大きく異なる。したがって、中核事業で成果を上げ、役員から絶大な信頼を得ているマネージャーに、新成長創出の先導役を任せるのは適していない。

逆に新事業が大きく成長する段階においては、「経験の学校」で事業拡大を学んだマネージャーが必要になる。新事業が1つの製品で成功した後に燃え尽きてしまうのは、「優れた製品を繰り返し生み出し、確実に供給するためのプロセスを構築するために必要な直観や経験」が創業者に欠けているからだろう。

安定企業が新事業を通じて成長を甦らせようとするときに厄介なのは、社内の「経験の学校」が、破壊的事業の立ち上げ方を教えるような「科目」をほとんど提供していないことである。人事担当役員は、まず社内の「経験の学校」を観察して、どの部分に必要な科目を設置できるかを検討すべきである。そして有望なマネージャーに、新成長事業の舵取りを打診する前に、適切な科目を確実に履修させるよう図る必要がある。

必要な「教育」を受けたマネージャーが社内で見つからない場合は、新事業のチームの中に「経験の学校」で必要なことを学んだ人材をバランスよく含めるよう、図らなければならない。適切な科目を履修したマネージャーを探し出すことは、成功に必要な能力を構築する、重要な最初の一歩である。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社