イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (4)

新市場型破壊的イノベーションは、業界を長期的に変化させる可能性が最も高いが、見分けるのが最も難しいイノベーションでもある。新市場型の破壊的成長を示すシグナルとして、以下の2つがある。

  1. 新興市場が「高い成長率」を示していて、しかもその「成長率が上昇している」こと
    • 新市場の規模にとらわれず、成長率が伸びている新市場を発見できれば、重要な動向を見極められる。
  2. ターゲット顧客が進んで新しいイノベーションを取り入れようとしていること
    • それまでできなかったことを簡単にできるようにしてくれる新しい製品・サービスならば、不十分な性能を我慢する。

無消費者の存在は、製品・サービスのサプライチェーンの全段階をマッピングすることで見極めることができる。新市場型破壊的イノベーションは、かつて専門家がいなければできなかったことを、自分でできるようにして、サプライチェーンからひとつの段階を取り除いてしまうことが多い。また片づけられていない用事を見極める適切な市場調査も、無消費の有無を見極めるのに役に立つ。

新市場型破壊的イノベーションは、価格が相対的に安い場合が多いが、絶対的に安いとは限らない。非常に高価な新製品の場合は、どうしても片づけたい人たちが用事を十分に消費できないこともあり得る。だがその後改良が進めば、生産効率が上がって価格が下がり、それによって破壊的な製品・サービスは、より広範な顧客層に普及することになる。

一般に統合型企業は、上位市場に向かう持続的イノベーションのどちらのタイプも得意とする場合が多い。急進的な持続的イノベーションを推進する企業にとって、統合化は不可欠である。統合型企業は、互換性や相互運用性、レガシーの問題に対処する際に生じる、さまざまな相互依存性をマスターできる。それに対して専門的企業は、バリューチェーン内の十分な数の要素をコントロールしていないため、急進的イノベーションをうまく事業化することができない。

満たされない顧客を獲得するための持続的イノベーションは、企業が最初の足がかりを築いた後に潜在的な成長力を実現するための手段である。技術が業界の競争構造に及ぼす影響を予測する、古典的な分析手法の多くは、持続的イノベーションの影響を理解するための貴重なツールである。なぜならば、持続的イノベーションは既存の測定可能な市場で起こり、確立された性能基準での向上をもたらすからである。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社