イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (5)

ハーバード・ビジネス・スクールのクラーク・ギルパート教授によると、イノベーションのジレンマを脱出する方法は二段階にわかれる。

  1. 資源配分プロセスでは破壊的イノベーションを「脅威」として位置付けることで、最高幹部からコミットメントを引き出す。
  2. 破壊的イノベーションを「機会」として捉えることができる自律的な組織に、そのプロジェクトを任せる。

ギルバート教授の提言をまとめると図4-1になる。破壊に十分な資源を獲得するためには、それを資源配分プロセスの中で脅威と位置付けるのがベストである。だが新規事業の構築に携わる者は、成長を生み出すという前向きの機会だけを見なければならない。さもなければ、柔軟性やコミットメン卜の欠如という危険に陥ってしまう。

図4-1. 資源のコミットメントを獲得し、それを破壊的な成長機会に向ける方法
図4-1. 資源のコミットメントを獲得し、それを破壊的な成長機会に向ける方法

 
「リスクと見返りから判断して、最も魅力的な機会に投資を集中させる」という優良企業の合理的な資源配分においては、既存の資源配分プロセスを変えるべきではない。だが新市場型破壊を通じて成長を生み出すためには、並行して別の資源配分プロセスを持ち、破壊的な可能性のある機会を既存の資源配分プロセスに導き入れなければならない。

破壊的事業のアイデアは、まだ十分に熟していない状態で並行プロセス(主流市場に向けた既存の資源配分プロセスと新市場型破壊を実現する新しい資源配分プロセスが並行する状態)を生み出す。この並行プロセスを統括する者は、アイデアを先述した4つのパターンに適合するような事業計画として形成しなければならない。また並行プロセスにおいて資源配分を決定する役員は、4つのパターンに適合するかどうかでプロジェクト案の可否を決定しなければならない。市場型破壊の戦略を実行する不確かな環境では、売上予測などの数字よりも4つのパターンへの適合性の方が、成功の予測指標として信頼性が高いからである。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社