優良企業は、大規模で明白な用途のある市場で地位を確立した競合企業の既存製品に対抗し、やがては彼らを追い落とすことを狙い、その手段として破壊的イノベーションを無理に用いる。この計画は莫大な投資を必要とし、必ずと言っていいほど失敗する。
破壊的イノベーションは優良企業のコア事業が堅調な間に顕在化するため、新市場型破壊を「機会」と位置付けても、上層部の関心を引くことはできない。既存事業がうまくいっているときに、新成長事業に投資するのはあまり意味がないからである。
優良企業のマネージャーは、本能的に破壊的イノベーションを脅威として捉え、既存の顧客や事業の防衛に注力する。そして将来、破壊から既存顧客を守る必要が生じたときに、新技術を導入してその場に臨もうとする。その結巣、組織は成長機会を逃すだけでなく、最終的には、自らの破滅を招くような戦略を追及することになり、無消費から現れた破壊者にやがて滅ぼされる。
新技術が将来的に顧客を奪おうとも、企業の生命線である既存顧客からの収益は、いかなる犠牲を払ってでも防御しなければならない。優良企業がこのようなジレンマに直面するのに対し、新規参入者にとって破壊は成功を得るための「機会」である。この認識の非対称性こそが、優良企業が破壊的技術を無理やり主流市場に押し込もうする理由である。
優良企業がやらなければならないことは、しかるべき時間にジレンマを乗り避えて、それをチャンスとして活かすことである。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社