イノベーションの自然な進展と、政府が市場を監督するためにとる措置との間には、予測可能な関係がある。「動機づけ」と「能力」は「政府の政策(市場外の要因)」によって市場の位置が変化する。その影響をまとめると、図4-1のマトリクスのようになる。
図4-1. 動機づけ/能力マトリクス
図4-1は、以下に示す業界の4つの状況を示している。
1. 温床(イノベーターが動機づけも能力もふんだんに持っている状況)
動機づけと能力が十分ある業界は「温床」であり、イノベーションに満ちあふれている。
「温床」では、既事企業と新規参入企業は何の制約にもとらわれず、既存企業には収益性の高い持続的イノベーションを追求する機会があり、破壊性を秘めた新規参入企業には、主要な既存企業を攻撃する機会がある。イノベーターは何の制約もない環境で、持続的、破壊的イノベーションの両方を自由に推進することができる。
2. 足かせ(イノベーションを開発、活用する能力に欠ける状況)
「足かせ」では、企業はイノベーションのビジョンが見えているのに、何らかの制約によって実現できない。
政府は、必要なインプットや顧客集団へのアクセスに影響を与えることを通して、「足かせ」の状況を創出したり是正したりする重要な役割を果たしている。新規参入企業であれ既存企業であれ、たとえ資源が無限にあったとしても、政府の政策に阻まれて顧客に到達できなければ革新的な製品で成長を生み出すことはできない。
政府による規制により、破壊的イノベーションの中核である要求のゆるい顧客層へのアクセスが制限されれば、企業のサービス提供能力が阻害されることがある。規制が厳しい業界では、起業家は破壊性のあるアイデアを活かせず、最大公約数的な製品をつくってしまうことが多い。
3. 燃料不足(イノベーションを開発、活用する動機づけがない状況)
「燃料不足」は、企業がサービスを生み出し、それを顧客に提供する能力がありながら、そうする動機づけを持たない状況である。「燃料不足」ではイノベーションを推進する機会はあるが、企業はそれを収益化する方法を見つけるのに苦労し、起業家精神を焚きつける「燃料」がなければ、成功する見込みが薄い。
政府は新規参入企業と既存企業の両方の動機づけに、さまざまな法的、規制的手段を通じて影響を与えることがある。政府は規制された市場や、少数の大手プレーヤーの支配する市場で競争を促進するために、ある集団には動機づけを与え、同時に別の集団の動機づけを削ぐような、非対称な措置をとることが多い。
資源を獲得し、それを使って顧客の望む製品を生み出す能力を持つ企業は、常識を覆すような利益創出方法を思いつくことがある。
4. ジレンマ(イノベーションへの動機づけも能力もない状況)
「ジレンマ」は「温床」の対極にある。「ジレンマ」では、企業はイノベーションを推進する動機づけも能力も持たない。「ジレンマ」の状況下にいるイノベーターは、イノベーションを創出して活用することができない。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社