イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (9)

顧客が過剰満足の状態になるとルールが整備されて、最終消費者(エンドユーザー)の近くにいる、スキルの劣るメーカーが必要にして十分な製品を作れるようになる。ルールが整備されることで、新規参入企業は、製品を新しい環境に導入したり、必要にして十分な製品を劇的に低いコストで提供するビジネスモデルを構築できるようになる。その結果、新市場型破壊的イノベーションとローエンド型破壊的イノベーションの両方に扉が開かれる。

企業は問題解決の経験を積むうちに、次第に因果性のパターンを認識するようになる。やがてシステムは十分理解され、開発の指針となるようなルールが生まれる。最終的にルールは広く受け入れられ、標準とみなされる。

製品が顧客に過剰な性能を提供しているとき、こうしたルールや標準があれば、それほど専門知識をもたない企業でも、ルールに従うことによって製品が作れるようになる。標準や規格が業界に広く浸透していることや、企業が採用活動で深い理論的知識を重視しなくなることは、この変化が生じたことを示すシグナルである。

インターフェースが定義されると、非統合型企業でもサブシステムを製造できるようになり、技術レベルがそれほど高くない企業でも、モジュール型製品の組み立てができるようになる。既存企業の観点からすれば、この事象は新市場型破壊的イノベーションによる成長のように見える(かつて市場から閉め出されていた企業が参入できるようになるため)。しかし消費者の観点からすると、ローエンド型破壊的イノベーションによる成長のようにも見える(安価な製品が手に入るようになるため) 。

ローエンド型と新市場型の破壊的イノベーションは、ひとつの連続体の両極をなしている。消費者への接近を可能にするルールが誕生すると、この連続体の真ん中に位置する、ローエンド型と新市場型両方の要素を併せ持つ企業が出現する。

標準化は、必要にして十分な製品・サービスの迅速な開発を可能にするが、速度と柔軟性を優先させた結果、最先端の技術から後退してしまう。満たされない顧客が存在する状況では、標準化のせいで、可能な限り最高の製品を開発する企業の能力が阻害される。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社