イノベーションへの解:第3章 顧客が求める製品とは (5)

なぜ優良企業は属性べースの細分化に基づく製品改良を進め、他社と区別の付かない万能型の製品を生み出すのだろうか。その原因は優良企業の社内で作用する、以下の4つの抵抗力にある。

(1) 的を絞ることへの恐れ
製品の焦点を特定の用事に絞ると、それ以外の用事を片づけようとしている顧客にとっての魅力が薄れる。「どのような用事のために雇われるべきか」を明確にすることは、「どのような用事では雇われるべきではないか」を同時に示すことになるからだ。
    解決案

  • 状況ベースの区分によって製品開発を行えば、競合他社の機能を模倣しなくなる。
  • 顧客が片づけようとしている用事に的を絞れば、新製品開発の成功確率を高められる。

(2) 上層部による機会の定量化の要求
優良企業の上層部は、市場機会の規模を定量化するために市場に関するデータを利用することが多い。そのため優良企業の資源配分プロセスは、企業の市場構造に関する考え方を、最終的にはデータが入手可能な線に沿わせるようにシステマティックかつ予測通りにねじ曲げる。
     解決案

  • 顧客が片づけなければならない用事ではなく、データの入手可能性に基づいて市場分野を定義すれば、製品のアイデアが顧客の用事と結びつくかを予測できなくなる。
  • 顧客の世界を「製品」という観点から捉えると、顧客にとってほとんど意味のない特長、機能、雰囲気などを次から次へと作り出してしまう。
  • 新製品開発のプロセスでは、成果を測定する目的で収集されたデータを使うべきではない。
  • 用事や状況をベースとした市場区分の規模や性質を定量化するには、一般的な市場定量化手法とは異なる調査・分析手法を用いなければならない。

(3) チャネルの構造
小売販路や流通経路は、顧客が片づけなければならない用事に沿ってではなく、製品区分で組織化されていることが多い。このようなチャネル構造のせいで、イノベーターは片づける必要のある用事に合わせて、製品の的を絞ることができない。
    解決案

  • 既存の小売または卸売チャネルは、自分たちの収益を伸ばすのに役に立たない製品を売ろうとはしない。
  • 製品を売ってもらうためには、新しい部類の小売業者や流通業者や付加価値再販業者を探し、彼ら自身が上位市場へ移行して既存のチャネルを破壊する原動力となるような製品を提供しなければならない。

(4) 広告とブランド戦略
消費者市場が年齢、性別、ライフスタイル、製品区分などに沿って切り取られていれば、コミュニケーション戦略を立てやすく、費用対効果が高い広告媒体を選択できると、優良企業は考えている。
    解決案

  • コミュニケーション戦略に合わせて市場を細分化すると、ターゲット顧客の属性が製品開発プロセスを混乱させ、結局は、複数の用事をこなすものの、どれひとつとして完璧にはできない製品を開発することになる。
  • ブランドを通じて、顧客に対してではなく、状況に対してコミュニケートすべきである。
  • もしブランドが「片づけなければならない用事」として認識されれば、顧客は暮らしの中でその用事が発生したときは、そのブランドを思い出して製品を雇うだろう。
  • ローエンド型破壊が既存ブランドを損なうという懸念に対しては、破壊的製品が雇われるべき用事を想起させる「目的ブランド」を構築するとよいだろう。
  • 顧客が製品と用事を結び付けることに手助けとなるブランド戦略があれば、破壊は容易になる。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社