2. 非対称な動機づけという「盾」と、非対称なスキルという「剣」を持った企業をどのように見分けるのか
無消費者や過剰満足の顧客を獲得するための新しい方法を生み出す新規参入企業は、既存企業から干渉を受けないまま新しい市場を創出するか、市場の低位層に参入してまったく異なるスキルやビジネスモデルを開発する可能性がある。
表2-2は、競争の勝者と敗者を見分ける、2種類の非対称性を特定する方法をまとめたものである。
何に注目するか | 定義 | シグナル |
---|---|---|
非対称な動機づけ | ある企業が、別の企業がやりたがらないことをやっている(反撃から身を守る盾になる) |
|
非対称なスキル | ある企業が、別の企業にできないことをやっている(攻撃に使う剣になる) |
|
非対称な動機づけを生み出す要因は3つあり、そのすべてが企業の価値基準と関わりがある。
- 事業機会の絶対的な規模
- 大企業が感じる成長機会は、新興企業にとっての成長機会とはまったく異なる。
- 事業機会において当初ターゲットとされる顧客
- 破壊的イノベーションは、既存企業にとって望ましくない顧客や、存在しないも同然の顧客から始まる。
- 新規参入企業は、既存企業が相手にしたくない顧客を獲得する動機づけを持っている。
- 事業機会のビジネスモデル
- 破壊的新規参入企業は、既存企業が利益を上げる方法とは異なるビジネスモデルを用いる。
- 破壊的新規参入企業のビジネスモデルは、粗利益率は低いが資産回転率(資産活用の効率性)は高い傾向にある。
2つの企業が、それぞれ理に適ってはいるが全くまったく異なる行動をとっているとき、非対称性が存在する。企業が儲からないと思う業界を、別の企業が重要な業界と呼ぶときにも非対称性が働いている。新規参入企業が開拓した新興成長市場を、既存企業が戦略的な優先事項と位置付けるのは、非対称性の不在を示す兆候であることが多い。
非対称なスキルは、企業が他社を攻撃するときの武器になる。ある企業が強みを持っている市場で、別の企業が持つ能力が弱みになるのであれば、そこにはスキルの非対称性が存在する。スキルの非対称性が生じるのは、企業が同じ課題をくり返して形作ったプロセスを通して、競合企業には真似できない独自能力を開発したときである。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社