イノベーションへの解:第9章 良い資金もあれば、悪い資金もある (14)

「投資資金が企業資金か、ベンチャー資金か」は「成長を気長に待てるか、待てないか」に比べれば重要でない。これまで成功した新規事業の多くが、当初はごく僅かな投資資金しか持っていなかった。この資金のなさが、創発的戦略策定プロセスを巧みに進める能力を、新規事業に与えたからである。

1990年代後半、ベンチャーキャピタルはアーリーステージ(創業段階)の企業に莫大な投資を行った。その結果、彼らの価値基準は変わり、小規模投資は行わなくなり、投資対象事業に急成長を要求するようになった。ベンチャーキャピタルが「莫大な投資」という重荷を背負うようになると、以下のような「成長ギャップの悪循環」のステップ3、4、5にある企業資本家と同じような行動を取り始める。

<成長ギャップの悪循環>

  • ステップ1: 企業が成功する
  • ステップ2: 企業は成長ギャップに直面する
  • ステップ3:「良い資金」は成長を待ちきれなくなる
  • ステップ4: 経営幹部は一時的に損失を容認する
  • ステップ5: 損失が増大し、縮小を促す

本書執筆時点(2003年)では、アーリーステージの事業には十分な資金が供給されていないため、多くの起業家が素晴らしい破壊的成長のアイデアに資金を獲得できていない。しかしこれは、ベンチャー投資ファンドのほとんどが、上記のステップ5「縮小を進め、すべての資金と関心を優先事業の建て直しに集中させる段階」にあるせいだ。

企業が新成長事業に資金を提供するために、コーポレート・ベンチャーキャピタル部門を設置しても、ほとんどが成功しないか、長く存続はしない。こうしたファンドが利益ある成長事業を育成できないのは、破壊的イノベーションではなく持続的イノベーションに投資するから、あるいは相互依存が必要なときにモジュール式の解決策に投資するからである。「成長を気短に急かすが、利益は気長に待つ」という投資を行うと、そのほとんどが失敗する。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社