イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (7)

企業は、破壊の力をコントロールするための戦略、つまり「破壊のブラックベルト」をとる方法を学ぶことができる。具体的には、新たに設立した独立組織を通じて破壊に反撃するか、破壊的成長をくり返し生み出す能力を社内で開発するのである。

既存企業が適切な準備計画を実行し、適切な戦略構築プロセスを用い、適切な経営者を採用し、適切な資金源から資金を調達することができなければ、スピンアウト組織をつくったり、社内で破壊のエンジンを開発しようとしても、必ず失敗する。

 

1. 破壊を推進するスピンアウト組織をつくる

既存企業は新規参入企業に必ずしも破壊されるとは限らない。新しいベンチャー事業を設立して他社を破壊することもできる。スピンアウトを実行するには、完全に独立した事業体を設置し、その事業体に独自のスキルを開発し、独自の成功基準を確立する自由度を与える必要がある。

「取り込み」が、社内の能力を動員して破壊的新規参入企業を撃退しようとする試みであるのに対し、「新しいベンチャーをスピンアウトさせる」のは、干渉を受けない外部組織をつくって戦いに参入しようとする試みである。

スピンアウト戦略の成否を判断するには、既存企業がスピンアウト組織の適切な要素を分離させ、その組織が独自の価値基準により、独自の準備計画を実行できるよう取り計らう必要がある。既存企業がスピンアウト組織に十分な自由度を与えれば、攻撃してくる新規参入企業に対して極めて有利な立場に立てる。また破壊の道筋を歩みやすくするような「資源」や「プロセス」をスピンアウト組織に授けることで、形勢を有利に傾けることもできる。

イノベーションを推進する組織をスピンアウトすることは、イノベーションマネジメントにおける万能の解決策ではない。スピンアウト組織が理に適うのは、既存企業が事業機会を追求するためのスキルや、それを社内で開発する動機づけを持っていないときに限られる。

 

2. 破壊の成長エンジンを構築する能力を開発する

既存企業が破壊的イノベーションをうまく推進できないのは、自社のプロセスと価値基準では、破壊的、持続的イノベーションの両方に同時に対処することが許されないからである。そこで、破壊的イノベーションをくり返し推進するプロセスを、社内に構築するとよい。

以下の手法を実行すれば、破壊的イノベーションを推進する確率は高まる。

  1. 必要になる前に始める
  2. アイデアを適切な形に変え、適切に資源が配分されるよう導く上級役員を任命する
  3. アイデアを適切な形にするためのチ1ムとプロセスを立ち上げる
  4. 破壊的なアイデアを見きわめられるよう、社員を訓練する

上記のうち2.と3.は特に重要である。これらの手法を実行するにあたって、次の点に注意すべきだ。

  • 破壊的イノベーションをくり返し推進しようとする企業は、破壊的成長を育むための独立したプロセスを持たなければならない。
  • 破壊的成長を育むための独立したプロセスには、イノベーションが主流事業にとって本当に破壊的かどうかを判断するための線引きが含まれている必要ある。
  • 持続的イノベーションのプロセスとは独立して運営されなければならない。
  • 強力な上級役員が資源配分プロセスを取り仕切り、破壊的イノベーションと持続的イノベーションを別のプロセスに振り分けなければならない。

破壊的な事業機会を優先しない主流の価値基準から独立した、厳密で反復可能なプロセスがあれば、破壊的成長を立て続けに生み出すことは可能である。反撃のためのスピンアウト組織を設置するという戦略と、破壊をマスターするための社内能力を構築するという長期的戦略を並行して実行することで、既存企業は形勢を再び有利に傾けられるだろう。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社