資源配分プロセスは、あらゆる戦略的行為が通過しなかればならないフィルターである。このプロセスは非常に複雑で、企業全体に分散しているため、上層部が考案した新しい戦略をそのまま「実行」に移せることはほとんどない。
戦略を定義して実行するためには、戦略プロセスと資源配分プロセスが作用する状況を、適切にマネジメントする必要がある。社内の各組織が置かれている状況を考慮して、戦略策定プロセスが有効に機能するよう図ることが求められる。
戦略策定プロセスにおける3つの重要なポイントは次の通りである。
- 新成長事業の当初のコスト構造を注意深く管理しなければならない。当初のコスト構造によって、優先順位付けや資源配分の決定を導く、価値基準や判断基準が決まってしまうからである。
- 事業計画では「発見志向計画法」などの手段を通じて重要な仮説を必ず検証し、有効な戦略を生み出すプロセスを積極的に加速させる。
- 一つひとつの事業に繰り返し直接関与し、それぞれの状況に応じて創発的戦略と意図的戦略のどちらに従うべきかを判断する。戦略策定プロセスの選択を、規定や習慣、文化任せにしてはならない。
経営幹部が「戦略的に重要である」と言ったところで、新事業のコスト構造が資源配分決定に及ぼす圧倒的な影響力には太刀打ちできない。経営幹部が注意深く気を配って、理想顧客からの注文でも儲けが出るようなコスト構造やビジネスモデルを構築しなければ、顧客を基盤とする事業を築くことはできない。
“組織の能力と無能力を支配するのは外部の存在である”、“顧客と投資家が組織の存続に必要な資源を提供する”という考え方を「資源依存」という。資源依存に対抗して変革をマネジメントする手段は、破壊的製品を高く評価する別の資源提供者に依存できるような、独立組織を構築することである。
意図的戦略と持続的イノベーションの世界では、大規模な既存企業は収益が実現する前に巨額の支出を行う。巨額の支出は瞬く間にコスト構造を定義し、知らぬ間にビジネスモデルが出来上がってしまう。そしてこのモデルが、魅力的な事業とそうでない事業を定義することになる。
新事業が単純な製品によって無消費に対抗する唯一の方法は「無消費のような顧客や製品を経済的に魅力あるものと捉えるコスト構造」を構築することである。大きな固定支出を最小限に留めることによって、生成期にある破壊的事業の血液とも言える、初期の小口注文を積極的に追求することができるようになる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社