産業の収益性を魅力的にするのは、その産業の企業がある特定の時点で、バリューチェーンのそれぞれの地点で置かれている状況である(魅力的利益保存の法則)。差別可能な製品、規模に基づくコスト競争力、そして高い参入障壁を生み出すのは「バリューチェーンの中の性能がまだ十分でない地点に位置する企業が利益を得る」という状態である。
統合企業は柔軟に連結、分離することができるため、特化型企業に比べて長期間利益をあげながら成長する可能性が高い。それは、コモディティ化と脱コモディティ化のプロセスが常に作用しており、その結果、利益を生み出す場所がバリューチェーンの中で刻一刻と移動するからである。
コモディティ化の餌食となる企業には、次のような傾向が見られる。
- すぐ下の階層のサブシステムまたは隣接するプロセスで、コモデイティ化と同時に起こる、脱コモディティ化という補完的プロセスを見落とすことが多い。
- これから利益を生み出す場所に移動する機会を逸し、脱コモディティ化の生み出した成長を他社が捉えるうちに押しつぶされ、ときには破滅に追い込まれる。
- モジュール式によるコモディティ化という状況を認識し損なった結果、属性に基づくコア・コンピタンス理論に救いを求め、のちに後悔することになる決定を下す。
モジュール型製品を扱う企業には、次のような傾向が見られる。
- 資産を処分してROA(総資産利益率)の分母を圧縮することでしか、ROAを改善することはできない。
- コア・コンピタンスか否かという判断で資産を手放すと、将来利益を生む能力を手放すことがある。
- ある資産を処分し、バリューチェーンの後端にいる企業にそれに関わる業務を外部委託すると、その企業に新たなバリューチェーンを構築し、新成長事業を生み出す機会を与えてしまう。
上記からわかるように、バリューチェーンを下から上まで統合することは、最適化されたアーキテクチャを持つサブシステムを設計する機会を生み出す。そして生み出されたサブシステムは、顧客が組み立てるモジュール型製品の性能を高める主要な手段となる。
競争力は、得意な業務を行うことではなく、むしろ顧客が高く評価する業務を行うことから生まれる。競争基盤が変化しても競争力を持ち続けるためには、新しい物事を学習する意欲と能力を持つことが必要である。そして、上に向かってバリューチェーンを侵食してくる勢力に対抗するには、部品やサブシステムの供給業者を所有または買収し、独立した成長志向の事業として運営するとよい。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社