イノベーションへの解:第7章 破壊的成長能力を持つ組織とは (6)

組織の能力は、設立間もない頃には「資源」に影響を受けるが、やがてそれは「プロセス」や「価値基準」へと移動する。人々が繰り返し発生する作業に協調して取り組むうちに「プロセス」がはっきりしてくる。そして、ビジネスモデルが形成され、どのタイプの事業が最優先されるかが明確になるにつれて「価値基準」が生まれる。

イノベーションを成功させる能力が「資源」から「プロセス」や「価値基準」へと移動するにつれて、成功を持続させることが容易になる。組織の能力が「資源」よりはむしろ「プロセス」や「価値基準」に根ざしているため、毎年質の高い仕事をこなし続けることができる。

新しい企業の「プロセス」や「価値基準」には、一般に創業者の行動や姿勢が色濃く反映される。創業者の問題解決手法や意思決定基準に基づいて反復作業に取り組み、成功を収めるうちに、企業に「プロセス」が確立されていく。同様に、創業者の優先順位に従って「資源」の用途に優先順位付けをし、経済的な成功を収めるうちに、企業の「価値基準」が形成されていく。

成功を収めた企業が成熟するにつれ、従業員はそれまで受け入れていた優先順位や、それまで成功を収めてきた仕事のやり方や意思決定手法が、正しいやり方だと思い込むようになる。これらの「プロセス」や「価値基準」が「企業文化」を形成するようになる。そして「文化」は従業員に一貫した行動を余儀なくさせることができることから、強力なマネジメント手段に成り得る。

このように、組織の能力と無能力を定義する最も強力な要因は、「資源」からやがて、認識しやすい「プロセス」と「価値基準」へ、そして「文化」へと移動する。組織の能力が「プロセス」や「価値基準」に移動し、特に「文化」に埋め込まれてしまうと、変革はとてつもなく困難になる。

一般的に、優良企業が新成長事業を構築するために、これまでとは異なる「資源」「プロセス」「価値基準」を用いる必要が生じるのは、中核事業が好調で、その成功を持続させるために必要な「資源」「プロセス」「価値基準」を変えられない時期である。そのとき「資源」「プロセス」「価値基準」を変革するマネジメントにおいては、一般に必要だと考えられているよりもはるかに臨機応変に対応する必要がある。

ハーバード大学のマイケル・タシュマン教授とスタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授は「両手ききの組織/両利きの組織(ambidexterity)」を構築することの必要性について研究している。彼らは、主流組織の価値基準に適合しない、重要な破壊的イノベーションを推進するためには、自律的な組織を「スピンアウト」させるだけでは不十分であると主張する。

経営幹部がスピンアウトを実行するのは、破壊を重要課題から外して、主流事業に専心するためだけのことが多いからである。彼らによると、真に「両手ききの組織」を構築するためには、一つの事業部門の中にこの2種類の組織、いわゆる「破壊的組織」と「持続的組織」を配置する必要があるという。

破壊的組織と持続的組織の運営は、これらを「1つのポートフォリオの中の2つのビジネス」として扱わないような事業部門に任せる必要がある。そして、2つの組織を統合して共有する必要があるものと、それぞれの組織が自律的に実行すべきものを、十分な配慮の下で区別する能力を持ったマネージャーに指揮を執らせなければならない。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社