新事業の資金が打ち切られる理由として多いのは、事業が計画通り進まないからではなく、むしろ不調な中核事業を回復させることに全資源を集中させる必要が生じるからである。
新事業において早期の利益が実現しないと、中核事業の業績が低迷したときに、財務状況の改善に大きく寄与しない新成長事業が真っ先に犠牲になる。
新成長事業を始めるときは、後ろで時計が時を刻んでおり、この時計の進み方を決めるのは会社の経営状態である。だからこそ、利益を気短に急かすことが、企業資金の優れた特性となる。この特性こそが、新成長事業に最も有望な破壊的機会を早く探り出すことを強制し、また組織全体の経営状態が悪化したときに事業が打ち切られる危険に対する保険を提供する。
図9-2は、この「方針主導型」成長の利点をまとめたものである。
図9-1. 十分な成長から不十分な成長への自己強化的スパイラル
適切な方針を十分に理解し適切に実行できれば、不十分な成長から生じるデス・スパイラルに代わる、上方スパイラルを生み出すことができる。この上方スパイラルが生じれば、企業は、持続的成長の状況に身を置くことができる。企業は「良い資金」を出し続け、それが「悪い資金」になるのを避けられる。これが成長エンジンの失速を回避し、不十分な成長から生じるデス・スパイラルを避ける唯一の方法である。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社