3. バリューチェーン進化の理論 ー「十分でない」ものを改良するための統合
企業が製品を製造したりサービスを提供したりするにあたり、次の選択肢がある。
- 統合化を進めて、ほとんどの活動を社内で行う
- 狭い範囲の活動に特化、集中して、それ以外の付加価値活動を仕入れ先や提携先企業に提供してもらうかである
バリューチェーン進化の理論(VCE理論)は、企業が競争を勝ち抜くために、組織設計に関する適切な意思決定を行っているかどうかを評価するものである。VCE理論によれば、企業は顧客が最も重視している特性における性能を向上させるような付加価値活動(またはその組み合わせ)をコントロールすべきである。
付加価値活動を統合する企業は、その活動において予測不能な「相互依存性」が引き起こす問題を解決する実験を自由に行うことができるため、いずれ完全なプラットフォームを手に入れることできる。一方、製品・サービスのバリューチェーンの一部に特化する専門的企業は、自社製造の部品が他社製造の部品と予測不能な方法で作用し合うと、性能と信頼性の劣る製品を生み出してしまう。
統合化によって可能になる性能改良は、それなりの犠牲を伴う。統合型アーキテクチャは相対的に柔軟性に欠け、統合型企業は相対的に対応が遅くなる傾向にある。VCE理論によれば、企業は顧客が最も重視している(または将来重視すると考えられる)製品の特性に影響を与えないような付加価値活動を、外注すべきである。バリューチェーン内の限られた部分を最適化することにかけては、専門的企業の方が長けている。
モジュール型アーキテクチャは、分業化を容易に(または可能に)する反面、 製品化に要する時間や、対応の早さ、利便性という面での性能が犠牲になる。この犠牲を受け入れるからこそ、企業は製品全体を設計し直すことなく、個々のサブシステムを改良するだけで、製品をカスタマイズできる。
イノベーションの理論は、どのような要因が環境を形づくり、企業の自然な決定に影響を及ぼすのかを理解する助けになる。理論を使えば、重要な動向が起こっていることを指し示すシグナルを明らかにし、またこうした動向が業界のプレーヤーに与えるであろう影響を説明することができる。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社