主流事業のプロセスや価値基準は、本質的に持続的イノベーションの実現を目的としている。そのため、破壊的成長を監督する責任は、CEOまたは同等の権限を持つ者が負わざるを得ない。
破壊の波を捉え、業界の頂点に留まった企業の多くが、創業者が会社を経営していたときに、破壊的イノベーションに取り組んでいた。以下の表10-1はその代表的な例である。
企業 | 破壕的成長事業 | CE0 兼 創業者 |
---|---|---|
バンクワン | ノンバンク・クレジットカード(ファース卜USAを買収) | ジョン・マツコイ ※1 |
チャールズ・シュワブ | オンライン証券会社 | チャールズ・シュワブ ※2 |
デイトン・ハドゾン(ターゲット・ストアーズ) | ディスカウン卜小売業 | デイトン一族 |
ヒューレット・パッカード | マイク口プロセッサ・ベースのコンピュータ | デイビッド・パッカード |
IBM | ミニコンピュータ | トーマス・ワトソン二世 ※3 |
インテル | ローエンドのマイクロプロセッサ(セレロン・チップ) | アンドリュー・グロープ |
インテュイット | 中小企業向け会計ソフトのクイックブックス、個人税務ソフトのターボタックス、クイッケン財務管理ソフトのオンライン化 | スコット・クイック |
マイクロソフ卜 | インターネット中心のコンビュ一タ利用、データベース・ソフト(SQLおよびAcces)、ビジネス・ソリューション・ソフトウェア(グレート・ブレインス) | ビル・ゲイツ |
オラクル | ソフトウェアの一元的提供(アプリケーション・サービス・プ口パイダ) | ラリー・エリソン |
クアンタム | 3.5インチ・ディスク・ドライブ | テイブ・ブラウン/スティーブ・バークリー |
ソニー | トランジスタを利用した家庭用電化製品 | 盛田昭夫 |
テラダイン | CMOSベースのICテスター | アレックス・ダーベロフ |
GAP | 低価格ラインのカジュアル衣料チェーン、オールド・ネイビー | ミッキー・ウェケスラー |
ウォルマー卜 | サムズ・クラブ(会員制卸売クラブ) | サム・ウォルトン |
※1 マッコイは創業者ではないが、パンクワンを成功に導いた買収戦略の主要な立案者だった。
※2 この取り組みでは、共同最高経営責任者のデイビッド・ボトラックがCEOのチャールズ・シュワブを支援した。
※3 ワトソンは創業者の息子だが、IBMのメインフレーム・テジタルコンピュータにおける成功の主な推進者だった。
表10-1で注目すべきは、創業者に導かれた組織が、基本的には単一事業型の企業で、破壊的イノベーションに直面した当時はそれほど多角化が進んでいなかった点である。単一事業型の企業が多いという事象は、新たな破壊的事業の創造を一層困難にする。
表10-2は“破壊的事業を推進できるのは創業者だけ”という原則に、いくつかの例外があることを示す。
企業 | 破壊的成長事業 |
---|---|
ゼネラル・エレクトリック | GEキャピル |
ヒューレット・パッカード | インクジェット・プリンタ |
IBM | パソコン |
ジョンソン・エンド・ジョンソン | 血糖自己測定器、使い捨てコンタクトレンズ、内視鏡手術と血管形成術の器具 |
プロクター・アンド・ギャンブル | 家庭用クリーニング「ドライエル」、安価な電動歯ブラシ、歯漂白フィルム「クレスト」 |
表10-2に記載された企業の専門的経営者は、多角化された多くの事業部門からなる企業という状況で新たな破壊に着手したがために、成功がより容易になったのではないかと推測される。これらの企業は新事業の構築や買収を行い、適切に運営するための慣例やプロセスがあり、それらが破壊的成長を生み出す専門的経営者を補佐したのだと考えられる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社