イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(9)

新規参入企業は、既存企業が破壊的イノベーションの取り込みに魅力を感じないようにしなければならない。さもないと、既存企業の動機づけは、必然的に「逃走」から「反撃」に転じてしまう。勝利への動機づけが同等であるならば、新規参入企業と既存企業との直接対決では、既存企業が圧倒的に有利である。

「既存企業による破壊的イノベーションの取り込み」の特徴は次の通りである。

  • 既存企業が新規参入企業と似た製品・サービスの開発に取り組んだり、破壊的新規参入企業を買収、統合しようとするのは、既存企業による取り込みを示すシグナルである。
  • ビジネスモデルやプロセスに非対称性が存在しない状況では、既存企業にとって取り込みは有効な戦略となる。
  • 既存企業は新規顧客に訴求するように既存の製品・サービスを強化して、破壊的イノベーションを取り込む必要がある。
  • 成長志向型の取り込みは、早い時期に開始する必要があり、かつ新規参入企業の中核顧客をターゲットにしなければならない。
  • 防衛型の取り込みは、技術開発の終盤段階に入ってからが多い。それは、既存企業が市場の最も厚い階層で競争に敗れたことに気づき、新規参入企業の上位市場への参入を食い止めようとするからである。
  • 企業のターゲット顧客や公式発表に注目すれば、その企業が成長志向型の取り込みと防衛型の取り込みのどちらを推進しているのかがわかる。例えば、既存企業が破壊的新規参入企業の主要市場を戦略的に優先すると発表したら、それは成長志向型の取り込みのシグナルである。
  • ビジネスの成功に必要なスキルや動機づけを既存企業が持っていなければ、取り込みは成功しない。持っていれば、既存企業はいつか必ず技術を習得して、新規参入企業者を阻止するか、飲み込むだろう。

既存企業は、破壊的新規参入企業に攻撃されそうなとき、(1)市場を明け渡す、(2)成長型の取り込みを試みる、(3)防衛型の取り込みを試みる、の中からいずれかの行動をとる。その特徴をまとめると表2-3となる。

表2-3. 既存企業の戦略を特定する方法
戦略 定義 シグナル
(1) 撤退 既存企業が新規参入参入企業に市場を明け渡すこと
  • 企業が中核顧客への回帰を発表する
  • 市場の下位層を明け渡す
  • ローエンド向け製品を廃止する計画を立てる
(2) 取り込み 既存企業が社内の資源を用いて攻撃に反撃しようとすること
  • 企挙が破壊的イノベーションを構築または買収する
 (2.1) 成長志向型 既存企業が新規参入企業の市場をターゲットにする
  • 既存企業が中核製品に手を加えて新規参入企業の市場をターゲットにする
  • 既存企業が新規参入企業の市場を戦略的に優先すると発表する
 (2.2) 防衛型 既存企業が既存顧客の周りに防衛を築き、参入を防ごうとする
  • 既存企業が既存の顧客基盤のローエンドに新製品を投入する
  • 新規参入企業の市場を優先しないと発表する

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社