業界の現リーダーが持続的イノベーションの競争でほぼ勝利を収める一方で、破壊的イノベーションでの勝算は新規参入企業が圧倒的に高い。その理由は、優良企業には持続的イノベーションを支えるための精緻化された資源配分プロセスがあり、構造上破壊的イノベーションに対応できないからである。
優良企業は、上位市場に向かう動機はあるものの、破壊的イノベーターにとって魅力的な「新市場」や「ローエンド市場」を防御する意欲がほとんどない。この現象を「非対称的モチべーション」と呼ぶ。非対称的モチベーションは、イノベーションのジレンマの根幹をなしており、同時にイノベーションを実現するための手がかりとなる。
優良企業は、下位市場から進出してきた企業に攻撃されたとしても、彼らと戦うよりも上位市場へ逃げることを選択する。優良企業を上位市場へと駆り立てるこの力は、どの企業にも、どの産業にも常に作用している。事業プランを「破壊的戦略」として形成することが、実績ある競争相手を打ち負かす上で有効であり、成功へつながるのは、戦わずに逃げようとする競争相手を打ち負かしやすいからである。
[注記]
クリステンセン教授がいう「技術」とは、あらゆる企業が労働力、原料、資本、労力、情報といったインプットを、価値の高いアウトプットに変換するために用いるプロセスのことである。したがって、今後は「破壊的技術」のことを「破壊的イノベーション」とも表現する。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社